上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- -- l スポンサー広告 l top
社会福祉士養成のカリキュラムが20年ぶりに改定され、21年度から新しいテキストが使われている。
筆者も大学で10数年「社会福祉原論」を担当しており、本年も改定されたある出版社の「現代社会と福祉」を使用している。
このテキストは、これから社会福祉専門職(ソーシャルワーカー)をめざそうとする若者たちへ福祉の基本を教える教材として、果たして適切なものなのだろうかと疑問点がたくさんあり、この1年間の授業に悪戦苦闘してきた。
しかし、こうしたテキストから国家試験の問題が出されるのかと思うと勿論無視することはできず、内容の半分ほどは自分のレジュメで補ってきた。
それでは、新テキストの何が問題なのか。
第一は、
日本のこれまでの現場実践や歴史を反映したテキストづくりがまったく行われていないことである。
我が国の社会福祉事業には、明治期以来、数多くの先人たちの素晴らしい実践や研究のなかで明らかにされてきた思想や技術の蓄積がある。
第二次世界大戦後についても勿論である。
ところが、そうした歴史はものの見事に無視されている。
例えば、「福祉の思想と哲学」の章は、いきなり「市場の論理と倫理」、「ロールズとセンに学ぶ」という節から書き出されている。
私は毎年、明治期の慈善事業や昭和戦前の社会事業実践の思想、戦後の糸賀一雄やその他の人々の哲学、また朝日訴訟やハンセン訴訟判決の意味を学んでもらっている。
また「福祉サービスと援助活動」の章は、突然「バイスティックの7原則」から始まっている。
社会福祉援助の基本である社会福祉は人間をどうとらえるのか、社会生活における自律・自立生活の支援とは何かということを説明したうえで、援助の方法やあり方を我が国の実践のなかで明らかにされてきた思想や知識・技術を踏まえて説明されるべきではないのか。
バイスティックの理論は、あくまで参考として掲げるべきであると思う。
また欧米の福祉はもちろん経済、社会、哲学等の学問の成果をその国の時代背景の説明を抜きにして、いきなり切り貼りして引用するという学問的な手続きの省略は、あまりにも若者たちをないがしろにしているといえるのではないだろうか。
第二は、
「社会福祉原論」あるいは「現代社会と福祉」という基礎的なテキストなのに、なぜ目次に社会福祉事業という言葉が一回も出てこないのか。
社会政策、福祉政策、社会福祉政策という用語で政策の重要性が一貫して説明されているが、政策論は社会福祉の実践を豊かにする限りにおいて意味を持つのである。
したがって、これまでの実践の課題を包摂し、実践に方向付けを与えない政策論の展開は意味があるのだろうか。
誰のためのテキストであるのか、私たちが養成しているのは、現場実践にかかわる社会福祉専門職(ソーシャルワーカー)である。
かつて社会福祉基礎構造改革の評価で、我が国を代表する社会福祉研究者が、社会福祉学が社会福祉政策の形成にほとんど影響を持てなかったことを反省し、学会誌でその総括が公表されている。
研究者が政策に影響を与えることができなかったことの本質は、政策、研究、実践がリンクしていない我国の社会福祉学のあり方に本質がある。
研究実践に裏打ちされない政策論を学生に求めてどうするのだろうか。
日本の現場実践の歴史を省いた政策論の展開はまったく観念的としかいいようがない。
第三は、
テキストのなかで先人の豊かな実践から紡いできた言葉を大切にしてほしいと思うことである。
社会福祉という対人援助の仕事では、究極には人が生きることを支える言葉が最高の武器になると考えるからだ。
子どもや老人が発する言葉をどのように受け止められるか。
そしてワーカーがどのようにこれらの人々と生きる力を分かち合う言葉を返せるか。
この言葉の本質を踏まえた上で、テキストで使用する用語も日本語にして概念を明確に使うことを心がけてほしいものである。
明治期に欧米の学問や経済、法律用語などを怒涛のごとく輸入したときに、明治の人たちはすべて国語(漢字)に置き換えた。
それが日本の近代化の基礎になった。
医師は患者にかならず日本語で病名を告げる。
社会福祉では、あまりにもカタカナ語が氾濫しすぎている。
社会福祉学が、言葉の大切さや外来語の日本語化に鈍感でありすぎるのをまことに憂えざるをえない。
今回は時間の関係から各編者とも編集作業に限界があり、十分なものにする余裕がなかったと思われるが、今後、社会福祉教育の土台となる「現代社会と福祉」「社会福祉原論」をもっと大切にすることを望むものである。

2010年02月号 日本ソーシャルワーカー協会会報 第65号
Copyright (C) JASW All Rights Reserved

スポンサーサイト
2010.03.08 Mon l 社会福祉はこれでいいのか l コメント (2) トラックバック (0) l top
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。