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米国のD・グロスマンは、「戦争における人殺しの心理学」の中で、素手の殺人からナイフ、拳銃、ライフルと抵抗感がなくなり、砲爆撃となると殆ど抵抗感がなくなると分析している。
すなわち殺人の抵抗感は兵士から対象までの距離に反比例しているといえる。
この心理は、あらゆる政策をたてる者の心理にも共通しているように思える。
政策という言葉は、これまで政治家が国家運営に関する行動方針を意味していたが、現在では、マクロには国家、メゾには企業をはじめとするあらゆる組織体、ミクロには個人、家族、友人の間でやりとりされる行動方針の意味で幅広く使用されている。
政策という意味を人間の行動を規定したり、操作する武器に例えれば、グロスマンがいうように政策対象との距離感がある場合には、その影響の結果に対しては殆ど抵抗感がなくなるといえる。
現在、進行中の社会経済的な課題をマクロ的に分析すれば、行き過ぎたグローバルな市場原理主義は、世界に未曾有の経済不況を引き起こし、メゾ的には企業における膨大な首切りや派遣切りをもたらし、ミクロ的には自殺、家庭内暴力や虐待などを多発させているなどの要因の基底にはそれぞれの領域における政策を推進する者の対象への「距離感」に相関しているように見える。
ところで先日、群馬県市渋川市で起きた無届の有料老人ホーム「たまゆら」で起きた10人の高齢者の焼死事件はこれらのマクロ、メゾ、ミクロの領域でこの施設の利用を容認した者と焼死した高齢者との「距離感」がもたらした事件であろう。
東京都から他県に委託した生活保護受給者である高齢者の数は14区で261人と報道され、焼死者の大部分が被保護世帯であったことが注目されるべきである。
被保護世帯の多くは複雑な生活過程を営み、家族や友人も少なくその代弁者は必ずしも多くはない。
それだけにこれらの人々はあらゆる人々から最も「距離感」が遠い存在になりがちだ。
報道によれば、
①現地を確認し、大丈夫だと判断した。ただ、防災施設など法令上の面まで確認しているわけではない。
②全国に散らばる施設を徹底的に調べるのは困難。
③1人では生活が難しい困窮した高齢者は他の施設は受け入れに難色を示す。
④火災現場には、区職員と県議以外の花は見かけられなかった。
⑤夜間の徘徊を防ぐのに戸につっかえ棒を立てかけた。
⑥県が調査する矢先であった。
などと言及されているが、どれも焼死者が距離感のある存在であったことが窺われる。
これまでにこの施設の問題をいち早く指摘していたのは、地域の住民であった。
数年前に「入所していたおじいさんが口から泡を吹いて倒れていた。」ことを施設に連絡しても救急車がくるまで職員が来なかったことなどが語られていた。
このような無届の有料老人ホームが増加する背景には介護施設入所への待機者が全国で約40万人と推測される過酷な現実がある。
カフェ難民をはじめとする貧困ビジネスが横行する由縁であるが、米発の貧困階層を対象としたサブプライムローンの破綻の構造に相通じるものがある。
いずれも貧困や最も傷つきやすい少数者への「距離感」の遠さが、人間の感性の無機質化を招いたといわざるを得ない。
事件直後に担当者が「事業者と利用者の対等な契約」だから、やむを得ないとテレビで報道されていたが、鳴り入りもので喧伝された利用者と事業者の「対等な契約」という大義は幻想であったことが炙り出された。
北九州市の餓死事件、年金問題、後期高齢者医療制度、障害者自立支援法、介護保険法などで指摘されている一連の課題はマクロ、メゾ、ミクロの領域における政策を発信する者と対象との「距離感」を示すものである。
自らの死と引き換えに仲間のために「つっかえ棒」を外そうとした高齢者の思いを掬いとる政策心理が内面化されるべきである。

2009年4月号 日本ソーシャルワーカー協会会報 第60号
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2009.09.10 Thu l 社会福祉はこれでいいのか l コメント (0) トラックバック (0) l top

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